経営コンサルティング

文化企業&経営コンサルタント
橘 治霞
Haruka Tachibana
文化政策修士(政策研究大学院大学卒)
文化戦略研究者、知財学会会員
文化活動を仕事にしていくには?
 ★芸術家も立派な事業家&起業家です。
 ★起業を考えている方歓迎。
 ★ワークだけでなくライフの 充実を含めた人生設計のお手伝い。
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橘治霞について
 急な冷え込みを感じるようになった11月の昼、スタジオとホールを兼ねる東京・原宿「アコスタディオホール」の入り口には、コーヒーの香りが漂っていた。とあるピアニストのソロ・リサイタルが始まろうとしている。リサイタルといっても大曲を披露する類のものではなく、数十人の観客に向けて、ピアニストが好きな楽曲を語りとともに披露するカジュアルなコンサートである。ひとり、またひとりと訪れた観客は、会場の暖かさにホッと上着を脱ぐ。そこにニコニコと話しかけながらコーヒーを勧めるその人が、このコンサートを企画し、運営までを担う〈スペース株式会社〉の代表である橘治霞だ。

橘の仕事は極めて多岐に渡る。現代音楽関連の出版、学生向けの国際交流イベントの運営、さらには美魔女コンテストの主催。冒頭で紹介した、音楽家をサポートする〈アーツ・コンサルティング〉もそのひとつだ。それらの仕事の根本には、ひとつの揺るぎない信条がある。まずは、多彩な経歴のはじめの一歩へと遡ってみよう。それは当時大学一年生の橘が、ある邦楽のコンサートを訪れた帰り道のことだった。
「この道を究めたい」。ひとりの観客だった橘の心に、小さな意志が芽生えた。そのために、一流に教わらなくては。帰ったその日のうちに、コンサートのチラシの隅に書かれた番号に電話をかけた。それは、日本を代表する筝曲の作曲家であり演奏家である沢井忠夫の連絡先だった。何度かの連絡の末、面会を許された橘に、沢井はこう言った。
「きみは運が良かった。ここに来るのがあと10年早ければ、私の言うことがわからなかった。あと10年遅ければ、きみの指が動かなかっただろう」

こうして、大学生の枠をはるかに超えた演奏家人生が幕を開けた。一流のもとで技術を磨きながら、橘は「いい音楽」を求めて野心的な挑戦を繰り広げる。たとえば、日本舞踊を取り入れた類を見ない演出は、多くの新規邦楽ファンの心を掴んだ。挑戦は舞台の上にとどまらない。大学箏曲部のOBOGや他校との連盟を組織し、邦楽界そのものさえ押し上げてきた。卒業後も挑戦は続き、後進の指導やリクルート勤務を経て、2000を超える現代音楽の楽譜を出版する〈マザーアース株式会社〉、そして数々のコンサートやイベントを担う〈スペース株式会社〉の立ち上げへと結実する。
野心を抱くすべての人にとって、最初の一歩を踏み出すことは何よりも難しい。なぜなら、目指す目標と自分自身のあいだの距離がいちばん短く感じるのが、歩きだす“前”だからだ。最初の一歩を踏み出すということ、それはあれほど近くに感じていたゴールがどれだけ遠い場所なのかを思い知る、苦しみのなかへ自分を放り出すことに他ならない。しかし、橘は沢井に電話をかけたそのときから、最初の一歩を踏み出すことをためらわなくなった。野心はある。それを現実のものとするためには、正しい手間を惜しんではいけない。目標の実現から、現在の自分の立ち位置までの道のりを遡行して導き出すことで、踏み出せずにいた最初の一歩は、「踏み出すべき」必然的な一歩へと変わる。
 原宿でのコンサートの二ヶ月後、橘は「東京タワー文化フェスティバル」という大規模なイベントを行った。その最大の特徴は、自身が深い関わりを持つ現代邦楽のコンサートを中心として、80にのぼる世界各国の音楽文化の紹介や、東京・港区の地場産業の振興までをひとつの会場で開催するという、類を見ない射程の広さだった。邦楽を知らない人が、他のきっかけからたまたま演奏を耳にする。そんな一人一人の偶然の出会いが、現代邦楽、さらには音楽文化そのものを育てていくという信念がある。思えば、11月のピアノ・リサイタルでもそうなのだ。観客に勧める一杯のコーヒーは、ピアニストとの距離を少しだけ近づける「最初の一歩」だった。「ともに踏み出そう」と語りかけるその歩みのあとには、確かに小さな芽ぶきがあり、いまも育ち続けている。
文:信濃東河
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